2011-01-29

パッチムその1

とうとうパッチムまでこぎつけました。パッチムとは、ひとことで言えば、音節の終わりの子音(ex. Kim の m)を表すための表記法です。これまで何度か韓国語にトライしながら、どうもココで頓挫してしまう―その壁がパッチムでした。初心者にとってはハングルを必要以上にややこしく見せている根源にも思えるのですが、しっかり取り組んでみると、実はさほど難しいものではありませんでした。むしろ、ハングルという文字の可能性を大きく広げている、ひじょうに優れた表記法だと思います。

■パッチムの位置
子音字+母音字(+パッチム) がハングルの基本構造。子音字+母音字の組合せ方の基本は、左右または上下の二パターン。そして、いずれにおいてもパッチムの位置は「下」です。

① 子音(左)+母音(右)  ex.)나(na)
①′ ①+パッチム(下)     ex.)남(nam)→ㅁがm音を表すパッチム

② 子音(上)+母音(下)  ex.)유(yu)
②′ ②+パッチム(下)     ex.)윤(yun)→ㄴがn音を表すパッチム

■基本のパッチム
/k /n /t /l /m /p /ng
※他にもありますが、基本の音は上記。

■発音
上記のとおりですが、日本語話者の耳にはほとんど聞こえない音も多く、特に、/k、/t、/p は、ほとんど聞こえません。強いてカタカナ表記するとすれば、「ッ」という感じです。/l /m にしても、日本語の「ル(ru)」「ム(mu)」とは違うので、カナ表記がとりわけ難しいのがパッチムでもあります。基本的に子音で終わる音のない日本語の文字では、パッチムの音声は正確な表記できないと考えた方がよいでしょう。

ex1)박(朴) 実際の発音 Pak(1音節、パッに近い感じ)
≠ パク PaKu(2音節、u音で終わる)

ex2)김치(キムチ) 実際の発音 KimChi(2音節)
≠ キムチ Ki Mu Chi(3音節、真ん中のムにu音が含まれる)

もう一つ、漢字との関連でパッチムが優れていると思う点は、漢字(中国語)の読みを、音声的にも視覚的にも、比較的原形に近い形で表記できることです。
例えば、中国語の「金」は1文字・1音節の語ですが、日本語で書くと「キム(KiMu)」と2文字・2音節になります。しかし、ハングルでは、「김」という1文字・1音節で表記可能です。漢文や漢字語を翻訳する場合、日本語では文字数・音節数とも大幅に量が増えますが、ハングルだとかなり原文に近いボリュームで翻訳あるいは表記できます。人名など、漢字の文字数とハングルの文字数はイーブンですし(ex. 裵勇俊/배용준/ペ・ヨンジュン)、漢詩の韓国語訳なども、日本語訳より原文に近い形態をとどめているようで、音声的にも視覚的にも漢字とのアナロジーを働かせやすい構造・形態を持っています。実際、ハングル開発に当たって、当時の学者たちは漢字の形態や内部構造をいかにハングルに反映するかに相当心血を注いだようです。(Cf.野間秀樹『ハングルの誕生』)
今日、韓国では漢字はほとんど使われなくなりましたが、そもそもハングルのベースには、やはり漢字とのアナロジーがあったのですね。それにしても、漢字の構造をとことん研究し、その成果を新文字創製に結集した結果、もはや漢字を使う必要がないほどに完成度の高い文字を創造したというのは、歴史の妙というべきか、何とも不思議な成り行きだと思います。

ハングルの構造、成立の歴史などについては、下記の書物が参考になります。新書ながら、かなり専門的な記述もあり、文献リストも付いていて、読み応えあり。ハングルの奥深さがよくわかる一冊です。

パッチムその2


0 件のコメント: